濃いブルーの夜

My Favorite Blue.

話の合わない人たちへ、

ラジオが好きだ。大体中学生の頃からラジオを聴くようになった。耳しか使わないから、ながら作業をしながら聴くことができるのが良い。ゴーゴーモンキーズ生まれROCK the RADIO 851育ち、不二家presents Snow Manの素のまんまを好きな奴は大体友達。CDラジカセでラジオを聴いていた頃は周波数ひとつ拾うのにも随分苦労していたが、現代はradikoという素晴らしい文明ができたことに心から感謝している。

しかしながら、radikoは聴取期限があるのが厄介だ。どの番組も放送日から一週間以内ならいつでも聴くことができるというシステムは本当に有難いが、一度聴いてしまうと24時間後には聴けなくなる等価交換が発生する。どんなに気に入った放送回であっても、永遠に聴き続けることはできない。

あと、ラジオにはリスナー参加型のコーナー(おたより紹介とか)があることが多いが、私はラジオの中でオープニングトークがいちばん好きだ。リスナーのことなど構わず、ただただパーソナリティがそのとき話したいことを話したいだけ存分に話してくれるのが、聴いていて正直いちばん楽しい。オープニングトーク的な雑談だけを永遠に喋り続けてほしいな〜、そういう番組ってないかな〜、と常々思っていた。
(その後、正にドンピシャで“そういう番組”なYouTubeチャンネル『ロザンの楽屋』を見つけて毎日欠かさず聴くようになるが、それはまた別のお話…)

 

去年の夏頃、何とはなしにPodcastを聴き始めた。Podcastってなんじゃいという方もいるかもしれないが、私は“過去放送が全部残るタイプのラジオ”という認識でいる。でもラジオと言いつつ、ラジオ局が制作した番組じゃない番組もある。平たく言えば“一般の人”がパーソナリティになって作られた番組もたくさんある。音声のみのYouTubeアーカイブが永遠に残るタイプのTwitterのスペース、そういう感じの存在と思ってもらえればなんとなく想像しやすい気がする。ちなみに私がPodcastを聴くときは、いつもSpotifyを利用している。

Podcastには、私がずっと探し求めていた“パーソナリティが喋りたいことを喋りたいだけ喋る番組”が沢山あった。このことに気付いたときは、「私が求めていたのはこれだー!!!」とめちゃくちゃ嬉しくなった。今ではもうほぼ毎日、隙間時間のどこかしらでPodcastを聴いている。

 

私のPodcastマイライブラリ(一部)。
これだけでもなんとなく私の好きな番組の傾向はバレそうな気がする。

あるとき、Twitter歌人のまほぴさん(岡本真帆さん)がとあるPodcastのツイートをRTしているのを目にする。そのPodcastの名前は、『話の合わない俺たちは、』。まほぴさんがRTされていただけあって、その時の配信回は短歌に関するものだった(第8回だったかな……?)。私は短歌が好きなので興味が湧き、これをきっかけにこの番組を聴くようになる。短歌以外の回も聴いてみたところ面白いな~と思うものが多く、いつの間にか全ての回を聴いていた。そして気付けば、次の更新はまだかな~と楽しみに待つようになっていた。

 

https://open.spotify.com/show/2a3RJDZfs34TpTQuBXufSs?si=fUkphi73Rge2wIUXNUWBdg

『話の合わない俺たちは、』は、物事の捉え方や価値観が違う“話の合わない”パーソナリティたちがお互いの頭の中を覗いて面白がる、そんなゆるいトーク番組だ(←これは毎回オープニングで仰っている口上をほぼ原文ママ引用)。大体2人、時々3人で、その回毎に設定されたトークテーマを元に対話が繰り広げられる。番組のパーソナリティは、以下のお三方。

・オーイシさん(センセー)
パーソナリティその①。映画好き。2022年は新作映画だけで約80本観たらしい(出典:第29回配信)。一時期関西に住んでいた影響からか、たまに関西弁が零れる。私自身が関西の人間なので、関西弁が出てくると親近感が湧いて嬉しい気持ちになる。

・ドヤさん
パーソナリティその②。高校の物理教師を経て現在は社会福祉関係のお仕事へ転職。なにかし堂にも携わっている。「そうそうそう、そうなの!」「そうなのよ~」という相槌が柔らかくて優しい。癒されて嬉しい気持ちになる。

・ぱのさん
この番組の作家さん。時々パーソナリティその③。絵文字の「☺️」を「ニコ」と発声して読む←可愛い。鳥ちゃんを飼っていらっしゃり、時々後ろから鳴き声が聞こえる。元気な鳴き声が聞こえると、ほのぼの嬉しい気持ちになる。


このブログを読んでくださる方の中には、この番組を初めて知る方もいらっしゃるだろうと思うので、個人的オススメ回をいくつかピックアップしたい。第1回から順に全部聴いてもらえたら、それがいちばんではあるのだけれど。

 

https://open.spotify.com/episode/0ebGhRpcCGaNg9dKaqYRwy?si=umcnuMXgT0i9YyKlLcR6Dw
第7回「読書の話 ─デルトラクエストのおかげでネタバレOK民になりました─」
→初期のトークの中では指折りの“話の合わなさ”が光る回。私も漫画だけは電子書籍でいけるけど、基本は紙派だなぁ。めっちゃ積読してるけど……。

 

https://open.spotify.com/episode/0VgPlBzOXH6EPDGL1fwu84?si=5lSs5ccHTrGIN4lb8f6AAQ

第15回「現代短歌を推したい vol.2」
→前編、中編、後編の全3回に渡る白熱の回。このブログを読んでくれているような人ならきっと面白いと感じると信じているのでつべこべ言わずに聴いてくれ(乱暴!)

 

https://open.spotify.com/episode/5HFAAePSs9I9CKzaZ1RrGZ?si=3D8LF6HNTkav-zgqhMfpNQ

第26回「番外編(ゲスト:タカマサ)~ドラマ「silent」をとにかく見て!~」
→番組初のゲスト回。私が初めて送ったお便りでリクエストしたお題を叶えていただいた回でもある(えへへ)。silentを観ていた人は第30回配信も併せて是非聴いてほしい(そしてタカマサさんお元気でしょうか。機会があったらまたゲスト参加で来てください!)

 

https://open.spotify.com/episode/5AqC6O261WJLjKZzp5xdZL?si=UNWfQSSuT0ecCOKJJcQGWA

第33回「『居るのはつらいよ:ケアとセラピーについての覚書』感想回 ─『推し活』と『ペット』はケアである─」
→このPodcastはどんな番組なのか、端的に表れているのがこの回だと思う。この番組において「ケア」という言葉は頻出単語だ。「ケア」とはなんなのか、「ケア」と「セラピー」はどう違うのか、この回を聴くと少し理解することができる。ご紹介されている本も改めてちゃんと読んでみたい。

 

https://open.spotify.com/episode/49v6fzSSe95jLqjSyV17lE?si=0O6Nnpz9Tq66H4T_5DWayQ

第36回〈リスナーお便り回〉「一年の中で、一番好きな日ってありますか?」
→私がリクエストしました(えへへ)。私は冬至がいちばん大好き!

 

https://open.spotify.com/episode/492kybWNV3ALdxOagZTQfO?si=ZI19X17xRM2OqQOG_OcMLg

第41回「みんなでドヤさんに似合う服を探しに行ってきました」
→自分でも何故かよく分からないけれど、全配信の中でいちばん好きな回をひとつだけ選べって言われたらたぶんこれを選ぶ。マジで何回も聴いてる。主にセルフケアにまつわるトークなのだけれど、私は私の好きな人たちが自分で自分を大切にしていることを知れるのが嬉しいのかもしれない。

 

https://open.spotify.com/episode/6Yom8h38Peo2RKv3XWse62?si=eIKESlobRtip7DcByhivgA

第46回〈リスナーリクエスト〉「『食のプロフィール帳』で平和なケンカをしようぜ」

→私がリクエストしました(えへへ)。人の食事にまつわる話、だ〜いすき!味噌汁の具談義でドヤさんが「(あさりとしじみは)味が、違う…!?」と心の底からびっくりするくだり、何回聴いてもおもろすぎる。

 

…多いか!?これでも絞った!絞ったほうなんだ!!!だって全部好きなんだ……

 

この番組のことをどうしてこんなに好きになったんだろうと振り返ってみるものの、具体的に「ここが好き!」という明確なポイントが実はないので、考え込んでしまう。「全体的になんか好き」なのだ。とてもフワッとした表現になってしまうけれど。

聴いていて心地がいい。言葉を発すること、それがもたらす影響力を、いつも真摯に考え向き合っていらっしゃることが発言の端々から伺える。だから安心して聴いていられるのかもしれない。何より、聴いていて「こんな意見(考え方)を持つ自分って、変かな……」と不安な気持ちになることがない。だって此処にいる人たちはいつだって「話が合わない」のだから、むしろ違っている方が通常運転だ。第32回配信でドヤさんも仰っていたけれど、「自分と人の意見が違っている」状態って、ちょっと怖い。自分が間違っているのかもしれない、という気持ちになる。でも此処でなら怖くない、そう思える。お互い自分と違う意見が出るたび、「へぇ〜!面白〜〜!」と肯定的に受け止めていらっしゃるのも、この番組の好きなところだ。

第29回配信を聴いて映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観に行ったり、第44回配信を聴いて漫画『あことバンビ』を読んでみたりと、ささやかながらも日常において小さな行動を起こすきっかけを、今までいくつも貰ってきた。生活の傍らにそんな存在があることは、とても嬉しくて、愛おしいと思う。

 

このブログは第48回配信が更新されたあたりから書き始め、ようやっと書き終わりそうな今はちょうど第50回配信が更新された日です。キリのいい数字であることと、第1回目の配信の中で「(収録している今は)4月だね。もう終わるけど…」「配信してるときは5月になってんのかな!?」と仰っていたので、そこからざっくり大体1年経ったということで勝手に番組一周年のお祝いとしてブログを書いてみました。ブログの体裁を取った、単なるファンレターです。

長々と書き連ねてしまいましたが、つまるところ私は『話の合わない俺たちは、』がとっても大好きです!これからも更新楽しみにしております!

 

追伸:ところでかねてよりここのカテゴリについては「この番組って恋愛……なのか……???」とは思っています。

コンビニには天使がいる

(※本記事は2017年5月にTumblrへ投稿した日記を加筆訂正したものの再掲です)

 

うちの近所は何故かやたらにローソンが多いのだけれど、その中で唯一存在するサークルKに一時期よく通っていたことがあった。単純な理由で、めちゃくちゃかわいいお気に入りの店員さんがいたのだ。かわいいといっても学生さんとかではなく、30代くらいのちょっと冴えない男性である。男性にしてはやや高めの声で、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」を、省略せずにきちんと発音する人だった。お会計の手つきも丁寧で、でもちょっといつもアワアワしていた。そういう振る舞いに癒されて、特に欲しいものは無くとも足繫く通っていたのだ。あまりに癒されるので、彼のことは心の中で勝手に「天使」と呼んでいた。本当の名前は覚えていない。

今から3年前、私は毎日毎晩遅くまでサービス残業続きで、帰宅時間は大体夜中の2時だった。お腹は空いてたけれど夜中に物を食べて太るのが嫌だったので、何となくカロリーの低そうなヨーグルトだとか、大好きなカフェオレだとか、そういうものを毎日毎晩買い食いしていた。もうへとへとで、ふらふらで、心も身体も疲れ切っていたなかでのささやかでちょっと無駄な買い物が、唯一の楽しみだったのだ。そんな夜中2時前のコンビニに、天使はいつも居た。深夜枠のシフト担当だったんだろうなあ。死んだ顔死んだ目でふらふら入店する私に、天使はいつも笑顔でハキハキと「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。

 

ある日、あまりにもしんどすぎる仕事をようやく終え帰路についた私は、クタクタな身体でサークルKに寄った。いつもどおり買い物をして、いつもどおり天使にお会計をしてもらいながら、疲れすぎた頭でぼんやりと「この人もこんな遅い時間にワンオペでコンビニ回させられて大変だなあ。私が帰った後も、この人はこのレジに立ち続けるんだなあ」とか考えていた。そして、お釣りを受け取る際に思わずぽろっと「ありがとうございます。お疲れ様です」と口走ってしまった。基本的にお釣りを受け取る際は、会釈をしているのかしていないのかよく分からない角度で首を動かして店員さんを見ないようにしているので、天使がどんな顔をしていたのかは不明である。そのまま天使に背を向け、手動のドアを押して店を出ていこうとした瞬間、後ろから「ありがとうございました~!…………おつかれさまです!」と声がした。ドアを開ける勢いは止められず、返事もせずにそのまま店を出てしまったのだけれど、想定外の労りの言葉に私はめちゃくちゃ癒されて元気が出てしまった。

それからは毎回、天使には「ありがとうございます、お疲れ様です」と必ず伝えるようになった。天使も毎回、「ありがとうございました」の後、ちょっと間を開けて躊躇いながらも「おつかれさまです」と私の背中に言ってくれるようになった。そういうことを繰り返しているうち流石に顔を覚えられたのか、入店時の「いらっしゃいませ」の前にはかすかな小声で「アッ」と認識されている声が聞こえるようになった。耳ざとい私が気持ち悪いのではなく、殆ど人が居ない深夜のコンビニなのでそういうのが聞こえやすいのだ。と言い訳したい。念のため。

本当は全然必要ないのに、ちょっとでもやり取りがしたくて「レシートはお付けしますか?」という問いに毎回「お願いします」と答えていたら、何度目かのお会計の際「レシートはお付け……アッ、されますよね、すみません、へへっ」と渡してくれた。私は涼しい笑顔で「ありがとうございます」と受け取りながら、心の中で「可愛い~〜〜〜」とガッツポーズをした。
またあるとき、少し風邪気味だった私はいつもカフェオレばかりを買うのにのど飴1本だけをレジに持って行った。商品…、お釣り…、レシート…、とピョコピョコした手つきで私に手渡しながら、天使は「喉痛めてらっしゃるんですか……?」と心底心配そうな面持ちで尋ねてきた。「そうなんです~、なんかちょっと。」と答えると「お大事にしてくださいね…!!」と本気で労わられたので、心の中で「可ッッ愛ッッッッ~〜〜〜〜〜〜〜〜~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」と思わず合掌した。

私は天使が大好きだった。異性としてや、人間としてというよりも、近所で飼われている犬が自分に懐いてくれているような、そういう感覚の嬉しさだった。

そんなこんなで真夜中の1~2時頃、そういう5分にも満たないささやかなやりとりを週4~5回のペースで繰り返していたある日、天使は私がレジに置いた商品のお会計をする前に「あの、すみません」「はい?」「楽天とかって、使ったりされますか?」と声をかけてきた。それはサークルKのポイントカードを良かったら作らないかという質問であった。専用サイトに登録するだけで簡単に作れるということ、貯まったポイントは楽天でも使えてお得だということを、分かりやすく丁寧に説明してくれた。そして何より、私はいつもここでよく買い物をしてくれているから、よりお得に買い物をしてもらいたいと思ったのだと、天使は私のためにわざわざ声をかけてくれたのだ。

私は「じゃあ、次来るまでに作っときますね~」と快く笑顔で応えた。天使も、「そしたら、この用紙一緒に袋に入れておきますね!」と、嬉しそうに商品と一緒に丁寧に袋詰めしてくれた。今までで一番たくさん会話をした夜だった。そしていつもどおり「お疲れ様です」と挨拶しあって、そのまま店を後にした。

 

それ以来、一度もサークルKに行っていない。

 

実を言うと、私はポイントカードを作ったり持ったりするのがひどく面倒だと感じる人間であった。今でも、iPhoneの機種変更時に無理矢理作らされたTポイントカードと、行きつけの美容室のもの以外、一切のポイントカードを持っていない。さらに元々当時は仕事に追われ日々残業続きの社畜であったので、簡単だと言われていたその登録サイトにまずアクセスすること自体が非常に困難で億劫であった。しかし私は天使に「次来るまでに作っておきますね」と宣言してしまったので、カードを持たずして店を訪れることはできない。あんなに一生懸命説明してくれたのに、持っていなかったらきっとガッカリさせてしまう……。そんなこんなでグズグズしているうち、店に行くことができなくなった。一週間、二週間、一ヶ月と月日はどんどん経過してゆき、遂に私は職場が異動になり、サークルKを通らない通勤路になってしまった。

あの頃のことを、今でも時々思い出す。急に来なくなった私のことを、天使は何か思ったりしただろうか。それともとっくに忘れられてしまっただろうか。今でも深夜シフトに入っているのだろうか。あの少し高い声で、ひとりひとりのお客さんに丁寧に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」ときちんと発音しているのだろうか。いらっしゃいませって、もう一度言われたいなあ。

いつかまた店を訪れ、お会計の後にお疲れ様ですと声をかけたら、私のことを思い出してくれるかな。訪れるためのポイントカードは、3年経ってもいまだに作っていないのだけれど。

 

***

 

(2021.5月追記)
このブログを書いた一年後、天使の居たコンビニはいつの間にか潰れていた。とてもショックを受けた。サークルKファミリーマートに統合されてしまい、今はもうどこにも姿は無い。カード嫌いな私もあの頃よりは手持ちのカードが増え、クレジットカードは楽天で作った。
今にして思えば、天使って要するに「推し」だったんだなあ。「推し」という言葉も概念もまだ知らなかったけれど、あの頃の私にとって彼は確かにささやかな心の支えだった。

今頃どこで何をしてるんだろう。どこかで会ったとしても、きっともう気付けないと思うけれど、どうか健康で、笑顔でいてくれたらいいなと思う。一度推したら、推しはずうっと推しなので。

母さん、オレは

LOSTAGEというバンドについて

2001年から地元奈良を拠点に活動を続ける3ピースロックバンド。来年で結成20年を迎える。私がこのバンドを知ったのは大体2008年頃。活動期間の半分以上を見ていることになるのか。10代後半という多感な時期に出会って以来、私の人格形成にかなり大きく関わっている。正直、人生で最も執着している存在と言っても過言でない。
彼らに対してはあまりにもクソデカ感情と呼ばざるを得ないものですぐ溺れてしまいそうになるので、今回は最近発売されたばかりのニューアルバムについて触れるに留めておく。留めておけるかな……。おけたらいいな……。 如何せん見切り発車なので……(……)


世界中が新型ウイルス感染の恐怖に渦巻く2020年4月6日、本人たち曰く「史上最悪のタイミング」にてLOSTAGEのニューアルバム『HARVEST』は発売された。通算8枚目の作品となる彼らのキャリア史上初、CDという実体のないデジタル・アルバムとしてリリースされた。私は偶然、本当にたまたま偶然、ボーカルの五味 (兄) さんが「リリースします」とツイッターで呟いた瞬間を目撃した (私が見た時点でツイートには「45秒前」 と表示されていた) (スクショしとけばよかった……)のだけれど、値段を幾ら払おうか考えるのに5日くらいかかり(※)、ようやっと購入したあとも聴くまでに3日くらい日を要した。(※今作品の定価は1500円だけれど、販売元であるBandcampの仕様上、それ以上の金額を払うこともできる)

詳細は割要するが、2,3年前から自分の中で意識的にLOSTAGEを遠ざけていた。 人生で最も執着している存在であったが、それゆえに、敢えて心の中から無理やり退かさないとうまく心のバランスが取れなくなってしまっていた (LOSTAGEに何かあったわけではなく、完全に自分自身の問題)。なので、LOSTAGEの音楽を、歌声を聴くのは、かなり久しぶりだった。1曲目を聴くのは特に緊張した。

もし、この作品が彼らの音楽に初めて触れることになるひとには、どんなふうに聴こえるんだろう。 澄んでややや高めのキーの歌声のおじさんが、まっすぐ飾り気のないことばを紡いでいるように聴こえるんだろうか。 声のやさしさは、音のあたたかさは、どう感じるのだろうか。

それなりの年月をかけてファンをやってきた。新規より古参のファンのほうが偉いだとかそういう考えは一切持っていないが、それはそれとして、長らくのファンだからこそ聴こえてくる音っていうのは、確かにあると思う。これはもう単純に知識量の問題で、彼らの「歴史」を知っているかどうかだと思う。歴史っていうとなんか重苦しいな。「歩み」と呼んでもいい。新規だろうが古参だろうが、知ってる人は知ってるし知らない人は知らない。そこに関心があるかどうか、それだけだ。私はたまたま、今となってはそう呼べるものたちを、リアルタイムで目の前で見てきた。だから知ってる。ただそれだけのこと。

上のほうでさらっと書いたけど、20年バンドをやるってただごとじゃない。存続の危機は何度もあったと思う。メンバーが変わり、所属レーベルが変わり、バンド名が変わり、それでもなお続けてきた。 少し触れただけで皮膚が切れて血が滲んでしまいそうな、ギラギラしてヒリついたナイフみたいな空気を纏っていた時代から、酸いも甘いも噛み分けて(酸いことのほうが格段に多かっただろう)、人生の節目をいくつも経験し、 今鳴らす音に昇華されている。同じバンドでありながら、もう全然違うバンドみたいになった。変わり続けていることが、昔から変わらない彼らの姿だと思う。


ようやっとHARVESTを聴いた。
1曲目、『かぎろひ』。初めて聴くのに懐かしい気持ちになった。ちょっと長めのイントロ、曇り空がだんだん晴れて日が差す景色が脳裏に浮かぶ。2曲目、『パルス』。声も音も言葉も柔らかくて優しい。コーラスはアチコさんかなあ。3曲目、『独楽」。イントロでなんとなくbloodthirsty butchersを彷彿した。オーオーオーオーで拳を突き上げたいな。ライブで聴きたいな。

聴くごとに胸の奥がぎゅうっとなって、3曲目でとうとう堪えきれずに目からこぼれた。こんなにもあたたかい、やさしい曲を。 まっすぐなことばを。あのLOSTAGEが。上流から何年も掛けて濾過された水が身体中に染み渡っていくみたいに、音が、声が、じんわりと沁みた。

7曲目の『HARVEST』、表題曲にして歌詞の中に「やすらぎ」と「これから」という言葉が入っているの気になったな。(やすらぎの道と、拓人さんのお店korekaraのこと……?)(他の人の感想とかー切何も見ずに書いてるので、公式見解がすでにされていたらめっちゃ恥ずかしい)私は6曲目のMESSAGEと9曲目の残像が特に好き。

得体のしれない新型ウイルスに世界中が侵され怯えるこのさなかに、この作品が世に放たれたこと。この曲たちを作った彼らがいること。音楽という手段があること。楽器があること。メンバーがいること。五体があって、動かせること。喉があって、声が出ること。心に意志があること。積み重なったひとつひとつが全部奇跡みたいに思えて、涙が出てしょうがなかった。


なかなか手を付けられなかったくせに、一旦聴き始めると永遠に聴き続けてしまっている。どうやってこの音楽を聴かずに今まで過ごせてこれたのか、どうしてそんな選択ができていたのか、もう忘れてしまった。

「今」、LOSTAGEを知っていること、好きでいることが、嬉しくて誇らしい。結局私は、これからも心を震わせて泣いたり、高揚してぶちあがったりして、己の日々に寄り添わせては勝手に傷付いたり勝手に救われたりしたいと思っている。LOSTAGEのある生活を送りたい。 LOSTAGEとともに生きたいのだ。

狭く天井の低いライブハウスで、拳を上げたり身体を揺らしたりしていたあの日々が、当たり前みたいにまたそこにありますように。そんな日が早く訪れますようにと願いながら、飽きもせずまた今日もHARVESTを聴いている。

 

 

あのリリースは史上最高のタイミングだったと、いつかの未来で言いたい。

 

lostage.bandcamp.com

 

hostage.hatenadiary.org

LOSTAGEニューアルバム 『HARVEST』 絶賛発売中です。Bandcampにて全曲フル試聴可能です。 何卒よろしくどうそ。